■世相一刀両断■
只今の世界は力の世界、利の世界です。即ち、軍国主義と資本主義の世の中です。
太古の昔、戦いに勝つために牙の大きな猪に似た動物が世代を繰り返すうちに、牙が大きくなり過ぎて、身動きできなくなり、自滅しました。
一時代前、我が大日本帝国は世界有数の軍事力を誇っておりましたが、太平洋戦争において、それが敵国アメリカの格好の好餌となって、戦力を消耗し、敗戦の基因となりました。
“Might is right.”、「力は正義なり。」はこの世の現実の一大側面を捉えた真実です。それは、生存するために人に神が与えた奇しき本能であり、能力です。しかし、それは自身を他者の暴力から守るための能力であり、自身の力を拡大して、他者を抑えたり、滅ぼすための力ではありません。
今世紀の世界は、未曾有の科学技術の進歩発展により、農業生産、輸送、貯蔵、分配の経済活動が革新的革命的に進展して、国家間、民族間、個人間で食糧を奪い合い、戦い合う、という状況から解放されました。
加えて、教育・情報の普及・高度化によって、世界の人々にとって、他国・他民族・他人は、敵対すべき悪などでなく、同類、同胞であり、知り合い理解し合って、共生することで、お互いに助け合い高め合う存在であることが、明らかになりました。
軍国主義・軍事力強化は今や、時代錯誤・過去の遺物となりつつあります。不測の事態に備えるため、自己防衛のため、一定の軍備・軍力は必要ですが、それで以って他国を攻略する理由も意味もなくなりました。
力を乱用する者は力によって自らを滅ぼします。生物史、人類史がそれを証明しております。
現今の世界は、経済万能・資本主義万能の世界と言って良いでしょう。「経済」、「儲け」、「利」の原理が世界、社会、人間関係を覆って、間隙もありません。
私達の現今の現実は経済まみれ、お金まみれということです。お金がなかったら、食べることができず、命を繋ぐことができません。栄養を摂って健康に生活することができません。暑さ寒さを凌ぐ被服で身を守り、住まいで安らぐことができません。病気に罹っても、薬を飲めず病院で治療を受けることができません。結局、お金が無かったら、一寸先が闇、明日生きる望みも消え失せます。
そこで、人として生まれた以上、一生お金を定期的に一定量稼ぐべく働くよう運命づけられております。
一時代前、資本家・資産階級、中産階級・ブルジョア、無産階級・プロレタリアと言うように、お金の多寡・有無によって人を区分し、定義しておりました。お金の有りかが極端に偏在していたのです。
今や世界的な資本主義の高度化・盛行によって、我が国においては、一億総中産階級と言われたこともあるように、心を尽くして働けば、誰でも一定の経済水準のもとで生活を享受できる、成熟した社会・時代になっております。
しかしながら、現今の経済的な豊かさの目標・標的は一個人、せめて家族に留まっており、広く他者・社会へと意識する方向性に欠けております。
神は自己保存の本能を人類に授け、それを全うすることが、生存の第一要件です。経済はその要件を満たしてくれます。
しかし、同時に神は人を社会的動物としての存在と位置づけました。人のため、社会のために重荷を背負ったり、自己を犠牲にする衝動を人の心に植え付けました。それは経済的なことでも、精神的なことでも、物理的なことで構いません、それによって他者が困窮から救われ、困難から立ち直った時、人は果てしない高揚感の中に没入します。<br>そこで、人は人生の限界を離脱して、天国に遊泳します。神は人間をそのようにお創りになったのです。
第二次世界大戦における我が国民の圧倒的な生き方の有りようは、「お国の為に命を捨てる」ことが最高の道徳とされ、人々はそれを寸分も疑いませんでした。それは、国家が人の心に内在する利他と自己犠牲の本能を極端なまでに乱用、悪用した事例です。現在の日本は、一転して、自分自身及び自分の家族の経済的豊かさに一方的に集中して生を営んでおります。これもまた、自己保存・自己保全の本能の行き過ぎた形態です。
現在多くの日本人は経済的にそれなりの豊かさを享受しております。にもかかわらず、多くの日本人が心のどこかで持って行く所のない空虚さを感じております。
